平原慎太郎 『TSURA』スペイン公演を前に

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果敢な創作を続け、驚くほどエネルギッシュに活動を展開している平原慎太郎とOrganWorks。

その象徴とも言うべき2015年5月の新作『TSURA』が、リ・クリエイションを経て平原の留学先だったスペイン公演を行う。

その創作のさなか、作品と自身の集団について想いを巡らせる平原の、最新の声を聞いた。(10月東京都内某所)

□全員がゴールを狙えるカンパニーが理想

――この1年、平原さんから取材などで話を伺う機会ごとに、創作と、自身の集団を持つことの関係性について伺っているように感じます。OrganWorks初の海外公演前の今ならではの、平原さんが考えるカンパニーの意義と有効性を、お話しいただけますか?

平原 新潟の公共劇場りゅーとぴあのレジデンシャル・ダンスカンパニーNoismへの参加を経て、2007年からフリーランスのダンサー、振付家として活動を始めました。団体に属していた反動か、やめた途端に「個人でどれだけできるのか自分を試したい。ダンサーより作家としてダンスに関わりたい」という猛烈な気持ちに襲われ、かなりの勢いで個人活動を始めたんです。
大植慎太郎と柳本雅寛とのC/Ompanyや、北海道の仲間との瞬projectはなどです。
それらはカンパニーというより「複数のアーティストが創作のときだけ集まる場」という感じのユニットで、そういう意味では僕にとって2010年から参加した「コンドルズ」も、かけがえはないけれど同じ意味合いです。言い換えれば「必要とされる時に出かけていく先」というか。
改めてカンパニーでの創作に気持ちが向いたきっかけは、11年にステージングで参加した『奇ッ怪 其の弐』という演劇作品です。

――イキウメの前川知大さん作・演出の舞台ですね。

平原 はい、世田谷パブリックシアターの主催公演で、仲村トオルさんや池田成志さんらに加え、イキウメの劇団員の方々も出演していらした。この劇団員の方々の、前川さんの言葉に対する理解度の深さ、演技や動きで表現していくまでの速度が印象的で。それはひとえに、同じ集団に属し、共有しているものが多いからだとすぐに思った。
その後、イキウメ本公演の稽古場にも同じステージングで参加させていただけたのですが、そこで目にした作品に対する推進力の強さ、集団ごと完成形に向けて進んでいく歩みの確かさに感激すら覚えたんです。

――ダンスカンパニーの集団性とは違ったのでしょうか?

平原 主宰者の方針により、カンパニーそれぞれ異なると思いますが、例えば海外のダンスカンパニーはダンサーの出入りが激しいイメージが個人的にはあったんです。一人立ちするまでの通過点のように思っている人が多そうだ、というか。僕自身にも、そういう発想があったのかも知れません。
でも、いざ創作を中心にした活動を始めてみると、自分の言葉や方法論を共有し、受け入れやすい状態で創作の現場にいてくれる人間が身近にいることはすごく大切だと思った。しかもそれは、作家でいるために大切というより、作品のために大切なことなのだと、前川さんとイキウメさんたちとの出会いで痛感したんです。あの時は、本当に稽古場に通うのが楽しかった。
で、回を重ねて一緒にやっていたダンサーやスタッフにも相談し、「メンバーを決めて創作しよう」とオーディションを行いました。本格的なカンパニーづくりの準備段階ですね。その結果が、2013年のOrganWorksでの二作『Before Beginning After The END』と『Drag&Paste』です。

――人数が多く、スケールも大きな作品でしたが、そんな意図があったんですね。

平原 ええ、オーディションと、今どの年代にどんなダンサーがいるのかのリサーチを兼ねていました。結果、出演してもらったのは「自分と身体感覚がなんとなく似ている人」と「僕に意見を言ってくれそうな人」。あのときから、OrganWorksはカンパニーとして始動したんです。
以降は、公演前でなくとも可能な限り週1くらい皆で集まり、作品やダンスそのものの話をし、ビジョンを共有するよう心がけています。人生でダンサーでいる時間はそれなりに長いけれど、「そのうちのこの時期はOrganWorksにいた」と、後に胸を張って言える時間にしたいんです。
時間を共有するのが増えた結果、限られた時間内でのベースづくりなどは速められ、その分作品を掘り下げるための時間がたっぷりと取れるようになるのが理想かな、と痛感しています。
あの二作では、自分が出ないヴァージョンを作ったのも良い経験でした。僕は自作に率先して出るタイプですが、外から作品を観る時間を持ったことで、俯瞰や客観視からしか生まれない思考がある、と気づけた。その気づきはこの1年で、さらに強まっている感じです。

――振付家とカンパニーのあり方としては、スペイン留学の受け入れ先であるカルメン・ワーナーさんのカンパニーにも触発されたのではありませんか?

平原 確かに、カルメンの振りやテーマをカンパニーのダンサーたちが咀嚼し、具現化するスピードは早いのでそこに刺激を受けた部分は大きいです。
カルメンも自作に必ずと言っていいほど出演してる。
難しいのは作品によっては脇役に回ることがありますが、そういうときもやはり主役に見えてしまうことがある。その辺はとても難しいと思いますし、だからこそ作品に対する「俯瞰の目」は常に持っていなければいけないと思っています。
自分のカンパニーに望む事は僕が出ていなくてもOrganWorksの作品だったねと言える、言われる、そんな集団性を持ちたい。全員がゴールを狙えるチームがめざすところですね。

作品を掘り下げるための時間がたっぷりと取れるようになるのが理想
自分の言葉や方法論を共有し創作できる仲間

 

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